茶道の中の結び

お仕覆しふくの結び  私が結びを始めるきっかけとなったのは「花結び」(田中年子著)という本でした。そこには美しいお仕覆しふくの結びが載っていました。結び目を意識したことがなかった私はその美しさ以上に結びに「鍵」の役割を持たせていたという解説に衝撃を受けました。お茶に毒を盛られないよう茶道役のみ知る結びが茶入れ袋に施されていたというのです。この時私は初めて日本の文化というものに強い興味を持ちました。 このような結びは「封じ結び」と言われます。戦乱の時代が過ぎ、茶道が民間のものとなるにつれ花鳥風月を結びに托すようになったそうです。お仕覆の結びを再現された橋田正園しょうえん先生が研究されていた文献「…

京都 祇園祭の結び

総角あげまき結び 総角(あげまき)は古代の少年の髪の結い方で、頭髪を左右に分け耳の上で輪の形に束ねた形。「総角」の名はこの髪型に似ているところからつけられたといわれます。京都三大祭りの一つ、祇園祭では鉾の正面や角房、見送りに美しい総角結びがそこここで結ばれています。 八坂神社 八坂神社の神輿には「八坂紋の結び」(上)と「総角あげまき結び」(下)が朱の紐で結ばれています。鈴の下にも金色の太い紐で総角あげまき結びが結ばれています。 屏風びょうぶ祭り 山車だし 相生あいおい結び  この結びは祇園祭の鉾飾りにも多くみられますが、水引の相生結びはこれとは違いますし、伊勢貞丈いせさだたけの「包結図説ほうけ…

インカ帝国のキープ

古代アンデス独自の記録管理装置  インカの言語であるケチュア語でキープは「結び目」を意味します。文字を持たなかったアンデスでは情報の記録、伝達手段をキープが担っていました。古代文明の記録の方法としては何らかの記号を印とし、パピルス、粘土板、亀の甲羅、樹皮の上に残す方法がありますが、繊維工芸に熱心だったインカの人々は紐に結び目を作って記録するシステムを生み出しました。 キープは糸でできた三次元の物体であり、使われる素材の種類や色が豊富で、この三次元性と視覚的多彩性という特徴は他の文明の書記システムとは全く異なっているといいます。 2012年 マチュピチュ「発見」100年 インカ帝国展図録より  …

鷹匠と結び

 日本で最初の包み結びの専門書といわれる「包結図説ほうけつずせつ」(伊勢貞丈いせさだたけ著)の「結の記」の中に「鷹のつなぎ様」という項目があります。鷹に付けられた大緒を鷹の止まり木である台架(だいぼこ)に掛けて飾り結びにしたもので、しばしば絵にも描かれています。 伊勢貞丈は鷹狩りを愛した徳川吉宗治世下に生まれた武家故実家で、「鷹狩りは公家より出でたる事なり 武家は鷹の事知らずといいたればとて 恥にはあらざる由、云々」としながらも、「貞丈雑記ていじょうざっき」(伊勢貞丈著)の“鷹類の部”では鷹や鷹道具、大緒や餌袋の緒の結び方などを詳しく解説しています。 大緒はとても立派な組紐で長さもあり、その優…

mahora(まほら)

〇表紙の結びの監修〇結びの背景、用途、由来、想いなど毎号寄稿 美しい場所 mahora 2018年7月1日 八燿堂より 編集/発行人:岡澤浩太郎 「mahora(まほら)」とは、美しい場所、すぐれた場所を意味する古語。創刊号のご挨拶には「美術や服飾、工芸や手仕事、伝統文化や民俗学、自然の風土や農や土、太古の知恵や日々の暮らし、といった広い領域を“美” というあり方を通して、横断しつなぎ、見渡していきます。」とありました。  そもそものご縁は、2017年に開催された松屋銀座の「祈りをむすぶ」展をご覧になった岡澤さんから限定部数の本を発行するにあたり表紙に結びを施したい、ついてはその結びのデザイン…

鶴岡への旅・ばんどりと民具

 東北庄内地方では荷物を背負うときの背中当てを「ばんどり」と呼びます。ばんどりには「丸ばんどり」「ねこばんどり」「しとばんどり」「羽根ばんどり」などあり、婚礼の時に嫁入り道具を運ぶために使われる「祝いばんどり」には色布や色糸が編み込まれ晴れの日を彩ります。嫁ぐ娘へと父親が何日もかけて作るそうです。晴れの場を彩る「祝いばんどり」は丁寧に編みこまれていて、素朴な美しさに魅了されます。2度目の羽黒山への旅の最後は致道博物館に行き、念願の「ばんどり」を見る事ができました。その量もさることながら、デザインの豊富さにも驚きました。  致道博物館のばんどり 撮影:関根みゆき 紐の美「ばんどりの背面美」 額田…

「山伏装束」との出合い

羽黒山伏「しめ」の結び  山伏装束の結びとの出会いは2010年のくくのち学舎企画・山のシリーズ2「里山伏入門編」でした。羽黒山伏の星野尚文氏(山伏名)をお招きして羽黒山での修行について映像と共にお話し頂くというものでした。その際に主催者である石倉敏明先生が山伏装束を身に付けて出ていらして、首に掛けられた「しめ」の結びに目が釘付けになりました。山に入る時に付ける「しめ」の結びは「あわび結び」「叶結び」というシンプルなものの組み合わせでしたが、そのデザインはこれまで見たことのないものでした。山伏修行の様子も山伏装束も初めてみましたし、「七五三」を「しめ」と読む事もこの時知りました。  これをきっか…

結びの本

1. 結びの研究者 額田巌ぬかたいわお氏の本 プロフィール額田巌:1911年(明治44年)-1993年(平成5年)岡山に生まれる。1935年早稲田大学理工学部卒業。日本電気株式会社に入社。工学博士・文学博士。 1940年(昭和15年)から本格的に結びの研究を始める。結びに関する本以外では『決断する人のための経営科学入門』・『知識産業と電子・通信』・『垣根』・『菊と桐:高貴なる紋章の世界』がある。 包み結びの歳時記(福武書店 / 1991年発行 )  1991年、亡くなる2年前に発行された本。「はしがき」に「ここでは民俗学の視点に立って、農耕の産物としての藁を基盤にした包み、結びが年中行事の中に…

武家故実家 伊勢貞丈

伊勢いせ貞丈さだたけ 1717(享保2年)-1784(天明4年) 68歳没  故実家(儀式や法令などのしきたりに通じた学者)八代将軍徳川吉宗治世下の享保2年12月28日、江戸の麻布鷺森に生まれる。通称は平蔵、号は安斎という。10歳で家督をつぐ。勉強好きで努力型の学者。同時代人に本居宣長・平賀源内・青木昆陽がある。室町幕府政所執事の家柄。将軍から大父(おおじ)と呼ばれるほどの大家で代々武家の礼法故実に詳しく、貞丈も江戸幕府の旗本として諸儀式にあたる。 包結図説ほうけつずせつ 明和元年(1764年)に自らの家に伝わっていた包みの作法を「包之記」にまとめ、のちに贈進にまつわるさまざまな結び方を示した…

浅草寺菊供養会

菊で災厄を祓う 毎年10月18日に行われる菊供養会きくくようえ。仲見世通りを抜けていくと本堂の手前で小菊の花束が売られています。まずはこの菊を買って本堂に入りますと、案内の方いらっしゃるので指示に従って靴を脱ぎ、本堂に入ります。菊を献花する所にお坊さんがいらして、菊をお渡ししますとすでに本堂に献花された下供菊と交換してくれます。それを持ち帰り陰干しして枕の中に入れると頭痛が去り、災厄を除くと信じられています。私は和紙に包んで枕の下に入れます。この日は「菊のお守り」も授与されます。 「金龍の舞」と「結び」 菊供養会の日には「金龍の舞」が奉演されます。楽器を首にかける赤い紐は「叶結び」が結ばれてい…