鷹匠と結び

季刊銀花1972第十号「紐の用と美」より 鷹狩りの紐「大緒」と「餌合子(えごうし)」

 日本で最初の包み結びの専門書といわれる「包結図説ほうけつずせつ」(伊勢貞丈いせさだたけ著)の「結の記」の中に「鷹のつなぎ様」という項目があります。鷹に付けられた大緒を鷹の止まり木である台架(だいぼこ)に掛けて飾り結びにしたもので、しばしば絵にも描かれています。
 伊勢貞丈は鷹狩りを愛した徳川吉宗治世下に生まれた武家故実家で、「鷹狩りは公家より出でたる事なり 武家は鷹の事知らずといいたればとて 恥にはあらざる由、云々」としながらも、「貞丈雑記ていじょうざっき」(伊勢貞丈著)の“鷹類の部”では鷹や鷹道具、大緒や餌袋の緒の結び方などを詳しく解説しています。
 大緒はとても立派な組紐で長さもあり、その優美なつなぎ方から鷹が特別な鳥であることがうかがえます。

鷹つなぎ様:「包結図説ほうけつずせつ伊勢貞丈いせさだたけ著 より

貞丈は「鷹つなぎ様三品」として、鷹の大緒の鎖に結ぶ仕様は三種ある、とその結びを包結図説に取り上げています。

鷹狩りの紐:「ひも」道明新兵衛どうみょうしんべえ著 より

 古くは仁徳天皇のころから後公卿大名が行った狩猟に、鷹狩りというものがあった。結局鷹を使って鳥を捕らえる狩りなのであるが、時には接客用に行ったりする関係上、物々しい道具立てが必要で、鷹には鷹の緒という立派な「ひも」をつけ、鷹を休ませて飾るばあいは架木(とまり木)という鳥居形の道具に「ひも」ではなばなしく結んで飾った。(中略) 四季とりどりの色や鷹の殊勲などでとりかえ、紫をもって最上とすることはほかの故実の「ひも」と同じである。
 
※「架木」の読み方: ほこぎ【矛木・鉾木・架木・槊木】-「鷹のとまり木。鷹槊たかほこ」 (広辞苑)
 「鷹狩りの鷹を止まらせておく鳥居形のほこの上縁」 (日本国語大辞典)
  この書では「架木ほこぎ」の説明として(とまり木)と入れたと考えられます。    

画像左:「ひも」(道明新兵衛著)・中「鷹匠の技とこころ」(大塚紀子著)・右「天皇の鷹匠」(諏訪流第6代鷹師 花見薫著)

鷹匠 大塚紀子さんとの出逢い

 包結図説の「鷹のつなぎ様」を見ても何をどうつなぐのかがわからず、大緒の結びというものを知ってからというもの「鷹匠」という存在がずっと気になっていました。しばらくしてサウジアラビアの国営企業を親会社に持つアラムコ・アジア・ジャパンによる「アラブ文化への誘い~「鷹匠」に学ぶ日本とアラブの繋がり」というイベントのご案内があり、参加しました。

 写真左:鷹匠衣装を纏う大塚紀子さん・中:冊子AramcoWorld2016・右:17代鷹師 田籠善次郎氏
 
 イベントでは諏訪流第17代鷹師田籠善次郎氏とその弟子である大塚紀子さん(現在、諏訪流第18代鷹師)が鷹を連れて登場しました。講義は大塚さんが行い、「鷹匠とは」から始まり「鷹狩りを示唆する遺跡(5千年前)」「日本の鷹狩り文化の始まり」や「中東また中央アジア~ヨーロッパの鷹狩り文化」まで、人類の無形遺産としての鷹狩り文化についてお話され、結びについても大きな収穫がありました。
 イベント後に大塚さんに鷹のつなぎ方について質問し、それがきっかけとなって奥多摩のお宅へ伺うこととなりました。自然豊かな環境の中にひっそりと佇む日本家屋。鷹の鳴き声が時折響く中、静かな時が流れました。紐のつなぎ方や道具のお話は本当に楽しく、有意義な一日でした。彼女の凛とした生き方と素直な笑顔がとても心に残っています。

 
 お手元には最後の1冊という大塚さんのご著書「鷹匠の技とこころ」を譲って頂き、読み終えて、彼女の研究の深さと鷹への思い、伝承への決意に触れ心を大きく動かされました。
 門外不出であった放鷹術をその伝承のためにあえて公開したその判断は、包結図説の著者、伊勢貞丈があえて家伝の包み結びを公開した気持ちに通じるものを感じます。貞丈の思い切った判断が室町時代に確立された折形礼法を世に伝え、明治時代に出版された多くの結びの本の基盤となりました。
 この本が伊勢貞丈の包結図説のように後世に大きな財産になると私は信じています。本の事を、そして鷹匠として生きる大塚紀子さんの事を知って欲しいと思い、折形デザイン研究所主催でトークイベントを開かせて頂きました。

上段/左端:大緒おおを―鷹をえたりほこに泊めたりするときに足革あしかわにつなぐ絹製の紐・12尺(約360㎝)
下段/左端:口餌籠くちえかご―餌入れ。藤製の籠に値付けを付けたもの。
下段/右端:丸鳩入まるばといれ-木製の楕円形の器に漆を塗った餌入れ
下段/右から2番目 忍縄(あるいは経緒)-絹製の細い紐・約35ひろ(約53~63m)
         調教の初期に足革につないで使用する。(「鷹匠の技と心」参照)

 鷹道具の大緒は組紐に回転するための金具を付け、最後に大塚さんが金具に鹿革を付けて仕上げます。鷹のつなぎ方の見本をつくりたいと思い、大緒の製作をご相談しました。その時にはもう以前と同じ金具が手に入らず、鷹狩りの道具つくりに関わっている職人さんの技の伝承も難しくなっていることを感じました。知り合いの組紐職人さんが新たな金具を手配して下さり、大塚さんへお渡しできて無事完成。ようやく「鷹のつなぎ様」を試みる準備ができました。

 伊勢貞丈の「貞丈雑記」の中には「鷹類の部」がありますが、幕府お抱えの鷹匠がいる時代、武家故実家として知っておくべき事だったと思われます。「包結図説」の「鷹のつなぎ様」は「鷹匠」へ、そしてアラブ文化の入り口へと私を導いてくれました。