登録有形文化財 宿泊施設「沼津倶楽部」 2025.8.20Wed-9.7Sun 13:00-19:00 (最終入場18:00まで)
企画:沼津倶楽部、ぬまづ いまとぎ、カミスク 西村優子
出展:紙の造形作家 :西村優子 / からむし作家 :ますみえりこ / アーティスト :資延美葵
HOW TO WRAP_ :山本考志 / 結び研究家 :関根みゆき
特別協力 / 協力・制作協力
折形デザイン研究所 / 団扇 :河野竹克
紙 :田村寛 / 内田海宇 / 北岡竜之 / 鹿敷製紙 ・ 紐:柏屋 江口裕之
入場料1800円には茶屋メニュー「数寄餅」1500円が含まれます(予約不要)
沼津倶楽部 別邸 住所:静岡県沼津市千本郷林1907-8
古来日本の住まいは強固な壁ではなく、木や竹、布や紙といった自然素材を活かした「障屏具」でしきられていました。障屏具は十世紀初めごろの平安京で完成された「寝殿造り」といわれる建築様式の中に多く見られます。その特徴は壁のない柱だけで構成された空間で、柱間には取り外しのできる襖や壁代(布のパーテーション)が使われ、身辺は几帳や衝立障子、帳台など多様なしきりで隔てました。帳台とは四隅に柱を立てて四方に帳を張った寝床のことで、布を垂れ下げて空間をしきったものを「帷帳」といいます。かつては出入り口に使ったしきりで「戸張」とも書かれ、これが暖簾の原形といわれます。
これらのしきりは可動式の軽量なもので、強固な壁でしきられたヨーロッパの住まいとは違った感覚や意識のもとにつくられています。完全に遮らない曖昧なしきりは人々の間で暗黙の仕切りとなり、壁に囲まれた住まいでは得られない他者との関係性や、鳥や虫の声、雨や風の音を四季の兆しと感じ、好ましい音と捉える感覚を育みました。
本展はこの日本独特の「しきり」に焦点をあてた作品が出展されています。
大暖簾 : 作品名「しきりの紙」 西村優子 資延美葵 ますみえりこ 共同作品





( 雨天の場合は中止となります)

土佐和紙で制作された大暖簾。光や視線を遮断せず、外の気配が繊細な和紙を通して感じられます。
西村優子氏が制作・ディレクションを務め、異なる表現方法を用いた3名の作家からなる共同作品。
日本のしきりを体感して頂ける空間となっています。
<西村優子さんの作品説明より>
駿河湾のさざなみ、富士の湧水が注ぐ沼津倶楽部の水盤、富士川の砂利と土を層にした版築壁などから着想を得て、「落水紙」をメインに使用しました。紙の制作に欠かせない水に焦点をあて、和紙に水を落とすことで繊細に映し出される模様と、その伝統技法に共感したことから選定しました。
また、「しきる」ことを作品を通して表現する中で、聴覚的なインスピレーションを用いた作品と合わせることや、からむしを使用し異なるテクスチャーを掛け合わせることで、作品に肌触りや奥行きを与え、多角的に表現しています。
訶梨勒(かりろく) 結び:関根みゆき / 折り:西村優子 / 檀紙:田村寛 / 紐:柏屋 江口裕之



折形(貝包み)デザイン:折形デザイン研究所
訶梨勒(大)の結び:つゆ結び・総角結び・総角結びのバリエーション・菊綴じ結び・茗荷結び
訶梨勒(小)の結び:つゆ結び・総角結び・にな結び・つゆ結び・茗荷結び
訶梨勒は慶事の床の席に飾られる香袋で、室町時代、「邪気を払う具」として柱に掛けたことが始まりと言われています。
寝殿造りから書院造りへと住空間が大きな転換を遂げた時代においても、場を浄化し邪気を払う具として訶梨勒は床柱に掛けられ、茶席にも用いられました。伝統的な訶梨勒には五色の紐や赤い紐で結びが施されています。
本作品では高知県の手漉き和紙「檀紙」と「にごり紙」を折って中にお香を入れ、光沢のある正絹無撚糸を陰影が出るように組んで頂いた紐で結びを施し、平安時代の邪気除けの具である「卯槌」や「薬玉」に倣って紐を長く垂らすデザインにいたしました。
田村寛氏作の檀紙は、その特徴でもある縮緬のようなしわが繊細に表現され、貝包みの折りではさらにその美しさが強調されます。江口裕之氏作の正絹の紐との相性もよく、それぞれの高い技術で生み出された陰影や光沢は繊細な手仕事ならでは美しさだと感じさせられます。
「小暖簾」と「むしのたれぎぬ白糸結び」 小暖簾 西村優子 / 結び 関根みゆき / 紐 江口裕之






むしのたれぎぬ白糸結び
結び:上から 総角結び・総角結びのバリエーション・総角結び・にな結び・茗荷結び
◇小暖簾
四種の異なる手漉き和紙をそれぞれの特徴を活かしての繋ぎ合わせ小暖簾として仕立てたもの。
和紙の原料となる楮やみつまたの樹皮を剥いだ後に残る芯材を活用して小暖簾と結びを掛けています。
◇むしのたれぎぬ白糸結び
鎌倉時代、旅をする際に女性は「市女笠 いちめがさ」を被り、この笠の周りに「むしのたれぎぬ」といわれる「苧 (からむし)」という植物の繊維で織られた薄い布を下げました。これは虫や陽を除ける役割と共に視線をさえぎるという「しきり」の一つとも言えます。布の上に下げられた飾り結びは装飾的な要素と旅の無事を願う護符とも考えられています。
このむしのたれぎぬから着想を得た、「むしのたれぎぬ白糸(しらいと結び」は、「しきる」をテーマに制作された小暖簾の印として本展のために制作しました。
関守石 HOW TO WRAP_ 山本考志



茶室へと続く露地の飛石の分岐点には蕨縄で十字に結ばれた「関守石」が置かれます。「留め石」とも呼ばれるこの石は「ここより先には立ち入ってはならない」という約束のもとに置かれたもので、これなども暗黙のしきりの一つといえます。
今回のグループ展で山本考志氏の関守石に出逢いました。沼津の石を黒い染料で染め、黒と絹色の紙紐で結びを施した関守石。そこには沼津倶楽部という場と本展のテーマでもある「紙」という素材へのこだわりが窺えます。石の存在感と石の上に十字に結ばれた紙紐による凛とした結びの美しさは、結びが結界の標と知らずともふと足を止めてしまいそうな、そんな力が備わっているように感じさせられます。関守石の佇まいはそのままに、新たな素材と結びでオブジェとして昇華された山本考志氏の関守石には多様な結びが施されていますが、そのどれもが美しく見ているだけで心癒される作品です。
しきり石 ますみえりこ






沼津の海で拾った石を手績みの糸で「まとめ結」びにして繋いだしきり石。1本のからむしの糸と結びだけで作られた作品です。「まとめ結び」で石を留め、装束に見られる「つゆ結び」で装飾したもの。機織りで糸をつなぐ際に使う「機結び」も結ばれています。からむしの糸を結びたいというますみさんは次々結びを習得され、美しい作品を生み出しています。
<ますみえりこさんより>
しきり石はからむしの糸一本だけでも美しいということ表現しました。
沼津の海で拾った石がまとめ結びと出会ったことで糸と石を繋ぐことが出来た作品です。そこにつゆ結びで少し装飾しました。 からむしの糸と結びの可能性が広がったらと思っています。からむしの美しさを知ってもらうことが私の役目だと思い、からむしの特徴を活かし、その良さや美しさを引き出すような作品を作っています。
大暖簾(中央に下げられた暖簾)制作 資延美葵さんのご紹介
資延美葵(SHINOBU Miki)
山梨県出身。東京藝術大学卒業(2024)。東京藝術大学 大学院 美術研究科在籍中。自身の持つ空間性共感覚をもとに音を認識し、空間上で音の高低のラインをなぞることでドローイングをおこなう。卒業制作が「2024年度 平成芸術賞」を受賞。
この度も沼津の環境音を採取・スケッチをして制作されています。