書と結びの二人展 「重陽の節供」の室礼 

下関市長府毛利邸 

 2009年10月9日~10月12日 下関市長府毛利邸にて

 墨象作家である坂本杏苑さんとの二人会。中学からの同級生ですがしばらくお互いの活動に触れる機会はありませんでした。大人になって共通の興味が実を結んだ思い出深い展覧会です。お母さまが昔この御屋敷に奉公されていたというご縁、この頃私は父の介護で年6ー7回東京-下関の往復生活。東京と徳山という距離を超えて二人展は実現に至りました。
 結び目には神が宿るといわれますが、毛利邸には14代目当主の心が 宿っているようでした。働く人々は、ここで働くのが幸せだと言い、朝からお掃除、お花 の手入れをそれは楽しそうに行います。
「門を開けま〜す」という元気な声が響き、どこかでまだ当主が生活しているような一日の始まりです。
毎朝清々しい、幸せな気持ちで過ごしました。

ここではお茶とお菓子を頂けます。お菓子は下関の老舗菓子店、松琴堂のお菓子「雪ごろも」でした。

22あった部屋は現在14部屋になり、5つの床の間があります。坂本さんの書にさりげない野の花が飾られていきます。山や道端で採取した花は夜露に一晩あてて、朝スタッフ総出で生けていきます。
そんな毛利邸の自然な花々に魅せられた人々が「今こんな花が咲いてますよ」とわざわざ知らせてくれて、「道を歩いていても、花から呼ばれるように求めていた花に出合うんですよ、不思議なのですが」と館長さんは嬉しそうにお話してくれました。

 
大広間からは美しい松と手入れの行き届いた庭が見え、建物にはヨーロッパに留学し建築に興味をいだいたという当主のこだわりが随所に見られます。天井が高く、窓ガラスはドイツから取り寄せたもの。各部屋の欄間は自然の風をやさしく通し、1日中大勢の観光客が訪れるにも関わらず疲れないのはこの風の流れのお蔭なのかなと思いました。毎日の建物散歩は朝の楽しみとなりました。


大広間は書と結びでハレの日の室礼に。様々な結びが飾られると、花の色はおさえられ書と結びを引き立ててくれます。「合わないところがあったら言ってくださいね。」とおっしゃるのですが、一つもありませんでした。


文字にも結びにも、太古の生活を物語る痕跡があるといわれます。私たちは毎日のように2人でテーマについて話しました。無縁に見える2つの世界が、重陽というお節供を通して繋がって行く過程は とても刺激的で楽しい時間でした。


展示が終わった後の毛利邸

 
 4日間だけハレの間となったお屋敷は、展覧会を終えると何もなかったかのように元の静かな佇まいに戻りました。その時の風景がとても印象に残っています。いつごろからか、自然を部屋の中に移して季節の巡りを感じてきた日本人。毎年の繰り返しが安らぎの時へと変わります。ハレとケの空間を実感した4日間でした。