あわび結び-awabi musubi-

 あわび結びは総角(あげまき)結びと同様に装飾結びとして広く知られる結びで、別名あわじ結び、葵結びともいいます。伊勢貞丈は「包結記」の中で「二葉の葵に似ているので、葵結びといわれるようになったのだろう」と語っています。
 明治初期に刊行された諸礼書では「あはび結び」(小学書礼書)、「あはひ結び」(石川県第一女子師範学校編)、「あふひ結び」(日本女礼式大全)となっているそうで、「あわび結び」が本来の呼び名と思われます。
 額田巌氏の著書に「玉の緒を沫緒(あわお)によりて結べらばありて後にもあわざらめやも」という歌が紹介されており、「この沫緒というのは、あわび結びのことであろう。この結びの神秘な力によって願望の実現を期待したものである」という記述があります。
 古い記録によりますと、御厨子棚の打敷を綴じつけるのに「あわび結び」を使っており、結びの装飾性が十分に生かされた美しい調度品の一つとなっています。ただ紐を通すことでも綴じつけるという目的は果たせるわけですが、一つ一つ丁寧にあわび結びを施すことで、美しさとともに結びの神秘な力を取りこむという思いも感じられます。
 また、装飾結びにはその用いられ方に吉と凶があり、あわび結びは吉事に使われます。吉事用の結びとしてはその他に「松結び」「竹結び」「蝶結び」「亀結び」「叶結び」「五行結び」「石昌結び」があげられ、凶事用としては「逆あわび結び」「けまん結び」「荘厳結び」などがあります。このことからも結びというものが、人々の心を表すものであることがうかがえます。


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